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呪遣いの妻 05

 それからしばらくは、同じような日が続いた。
 毎朝、秘書の1人として会社へ行く。服を選んだり、化粧をしたりと言うのは、全部妻まかせ。結果、少女趣味のかわいらしい格好をさせられることが多かった。
 昼間は、おれの指示で小娘に社長として振舞わせる。小娘は、文句も言わずに黙々と仕事をこなしていた。余程元の体に戻されたくないらしい。昼食は、相変わらず小娘が肉ばかり食いたがったが、おれは、サラダぐらいしか食べずに、もっぱら、最後に出てくるデザートを楽しんだ。
 午後には、評判のスイーツの店から取り寄せて、秘書室で『お茶会』を開くのが常になった。もちろん、その間も小娘には社長室で仕事をさせる。小娘は、最初のうちはどんなスイーツか興味を持って覗きにきたが、どれも「おれ」の体には甘過ぎるということがわかると、「目の毒」と言って、『お茶会』には現れないようになった。
 結果的に、『お茶会』は女5人(おれもその中の1人だ)で行なわれるのだが、いつもは、隙のない美人秘書4人が、スイーツを前に、うっとりした顔になったり、キャーキャーと黄色い声を発したりという、ある種信じがたい会となっている。あの秘書室長でさえ、『お茶会』のときは、目をトロンとさせて、幸せそうな顔になるのだから、スイーツの魔力は恐ろしい。
 定時を過ぎると、小娘に秘書の誰かをつけて、残業をさせる。基本的に、残業にならない日はない。それはそうだ。社長業に慣れたおれが仕事をしたって残業せざるを得ないことがしばしばなのだから、小娘のスキルでは、定時内に仕事が片付くわけがない。小娘は、仕事が片付くと、その秘書のところへ行っているらしく、屋敷には帰ってこなかった。
 おれの方はと言うと、定時きっかりに帰るので、夜はたっぷりと時間がある。妻と待ち合わせて、食事をしたり、買い物をしたり、映画を見たりと、デートみたいなこともした。屋敷で妻が手料理を作って待っていることもあったし、2人で一緒に料理を作ったりもした。残業している小娘を尻目に、おれは、連日妻と夫婦水入らずで過ごすことができた。
 小娘が屋敷に帰って来ないし、通いで雇っている家政婦もおれが屋敷に戻る頃には帰ってしまうので、おれは、以前と同じようにこの屋敷の主人として振舞うことができた。使用人用の小娘の部屋に入るのは、下着など、小娘のものを取りに行くときだけだった。
 妻とは、時折一緒に風呂に入ったりもする。と言っても、背中を流し合ったりする程度だが。最初の日みたいに、例の部屋に連れ込まれるということはなかった。
 寝るときには、これも以前と同じように、ダブルベッドで一緒に寝る。おれが男の欲望を覚えて、妻の体を愛撫しようとすると、決まって返り討ちに遭った。ただでさえ体格で劣っているのに、そのときのおれの体は、呪の力で極端に敏感にされているので、胸をちょっと触られた程度でも、感じてしまう。
 おれが小娘の小さな手で妻の体を愛撫しようとすると、決まって妻は、「おいたはいけませんわ、あなたさま」と、おれのからだの各所を責め返す。そうなると、おれは止めどなく押し寄せてくる快感の波に打ち勝つことはできず、いつも、妻の手で弄ばれて、何度も絶頂に達し、火照った体のまま眠りに就くというパターンだ。あまりの気持ちよさに失神してしまい、そのまま朝まで気を失っていたこともあった。
 おれは、そのうち、返り討ちに遭うのを承知で妻に迫るようになった。妻の方から、おれに手を出すということは、決してなかったからだ。小娘の敏感な体を弄ってもらうには、まず、こちらから妻の体に手を出さないといけなかった。
 たまには、屋敷に帰らず、秘書のところに泊まりに行ったりもする。もちろん、社長として愛人を抱きに行くのではなく、18歳の新米秘書として、先輩のところへ遊びに行くのだ。大抵は、有名スイーツのお取り寄せをしたから、食べにおいでと誘われるのだが、もちろん、スイーツを食べて終わりではない。少女向けブランドの店に行って、かわいらしい服を着せられて、死ぬほど恥ずかしい思いをしたり、ランジェリーショップでかわいらしい下着を着せられて、死ぬほど恥ずかしい思いをしたりする。最後は、秘書のマンションで一緒にお風呂に入って、死ぬほど恥ずかしい思いをした後、ベッドの上で死ぬほど恥ずかしくて、死ぬほど気持ちよくさせられる。
 秘書とのことは、当然、妻にも筒抜けになるのだろうが、妻はそのことについて、おれには一言も言わなかった。おれは、妻や秘書たちの手で、夜毎、女の快感の凄まじさをおれの魂に刻み込まれていった。
 週末には、小娘が屋敷に戻ってきて妻と過ごす。妻は、小娘に抱かれるのだろう。いつも、快感に溺れるおれの姿を見て、欲求不満が溜まっているのかもしれない。残念ながら、今のおれの体では、妻を満足させることはできないのだ。
 いや、たとえ、元の体だったとしても……。


 小娘の体にされた2度目の週末、おれは、思い切って1泊2日の旅行に出かけることにした。
 週末になると小娘が屋敷に戻ってきて妻と一緒に過ごすということで、おれは屋敷では、使用人部屋で過ごさなくてはならない。とはいうものの、妻からは、家政婦としての仕事は完全に免除されている。ならば、あの狭い使用人部屋で小さくなっている必要はない。週末は、どこか都内のホテルにでも泊まろうと思い、ホテルに泊まるのなら、何も東京である必要がないことに気付いたのだ。この体でおれや小娘の知り合いと出会うのは極力避けたかったから、東京ではあまり出歩けない。かと言って、ホテルに籠もりきりでは気が滅入ってしまう。旅行に出れば、知り合いに会うこともないので、気兼ねなく出歩くこともできて、好都合だった。
 18歳の女の子の1人旅で手頃なところはないかと旅行代理店に問い合わせたら、北海道を薦められた。いろいろ迷ったが、函館の温泉に泊まって、夜景を見るというプランにした。本当は、香港とか韓国とか、近場の海外にでも行きたかったのだが、小娘はパスポートなど持っていなかったので、国内にせざるを得ない。まあ、温泉など久しく行ってなかったので、それはそれで楽しみだ。
 妻や小娘には、旅行のことは伏せて、単に都内のホテルで泊まるという事だけを伝えておいた。こんな姿で旅行などと知られたら、どう思われるかわからない。妻には、この体でいることを楽しめと言われていたが、旅行なんて言うと、本当に楽しんでいるみたいに思われそうで、癪だった。
 金曜日の仕事帰りに、会社から少し離れた所にあるデパートに寄って、何でもいいから、今のおれに似合う服を見繕うように言った。旅行に着て行く服を調達しようと思ったのだ。あれこれ試着させられた結果、水色のワンピースを買わされた。小娘の体は、余程ワンピースを着せたくなるような体なのだろう。
「とってもよくお似合いですこと。まるで、お嬢さまにお召しいただくために作られたようなワンピースですわ」
 試着のときに、デパートの店員にそう言って、薦められた。まあ、確かに、小娘の幼い顔や体つきには、よく似合っている。ただ、これはちょっと、かわいらしすぎではないかと思ったが、店員に褒められて、乗せられて、買わされてしまった。ついでに、この服に合う靴下やら靴やら帽子やらも揃えてもらって、最後に財布を入れる鞄が欲しいと言ったら、ハンドバッグではなくてポシェットを買わされた。がんばっておめかしして出かける女子中学生という感じになってしまったが、まあいい。この美少女の中身がおれだなんて、誰も気付くわけがないのだから、気にしないでおこう。
 同じデパートで、旅行用のキャリーバッグも買う。無地の地味なものを買おうとしたが、そんな地味なものは店員が許してはくれない雰囲気だったので、キャラクターの絵がついたピンクのかわいらしいバッグを買う羽目になった。着替えのための下着を1人で買いに行くのはさすがに恥ずかしかったので、小娘のタンスにあったものを金曜日の朝に持ってきた。秘書に買ってもらったかわいらしい下着も1揃いだけ持ってきた。化粧品も揃えようかと思ったが、荷物になると、小娘の細腕で運ぶのは大変そうだったので、口紅を1本だけ買って済ませた。
 金曜の夜は都内のホテルで1泊し、土曜の朝に新調した水色のワンピースを着て羽田へと向かう。当たり前だが、誰もがおれのことを少女と認識している。電車の中で、「かわいいー」という若い女の声を何回か聞いた。
 飛行機に乗って1時間。あっという間に函館に着いた。東京からたった1時間であっても、ここまで来れば、おれのことも小娘のことも知ってる人間は皆無の筈。おれがこの街にいることは、妻も小娘も知らない。
 ならば、この街にいる間だけは、妻が言う通り、18歳の女の子として行動してみよう。それを楽しむことができるかどうかはわからないが、少なくとも、妻が言うように2度とできない体験になるだろう。そう心に決めて、飛行機を降りた。
「――ホテルまでお願いします」
 タクシーに乗るときも、いつものような態度ではなく、18歳の女の子としておかしくないような言葉遣いをした。相変わらず、気恥ずかしさはあるが、2日間ぐらいなら、なんとかこれで通せそうだ。
 空港からホテルまではタクシーであっと言う間だった。取りあえず、ホテルに荷物を置いて、身軽になってタクシーで市内へ出て、散策する。
 街を歩いていると、至るところで声をかけられた。
 おれに声をかけてくる奴は大まかに分けて2種類。
 若い男か、警察官だ。
 若い男の目的はもちろん、ナンパ。さすがにこれは取り合わない。「おごってあげるよ」なんて言っているが、おまえらをまとめて一生面倒見るぐらいの金は持っている。
「ごめんなさい。急いでいるんです」
 と言って断るが、しつこいのは、どこまでもついてくる。走って逃げても、今のおれの脚ではすぐに捕まるだろう。金でも渡して、「これやるから、どっか行け」と言いたかったが、何とか我慢。ポシェットから携帯を出して、警察に連絡する振りをしたら、ようやく消えてくれた。
 一方、警察官は、おれのことを中学生の家出少女とでも思っているようだ。免許証と会社の社員証を見せれば納得するが、必ずと言っていい程、免許証とおれの顔を見比べている。この体が高卒18歳の社会人であるということが信じられない様子だ。そう言うおれだって、自分が18歳の少女の姿でいることが、いまだに信じられない。
 若い男と警察官に声をかけられる他は、港近くのお洒落なカフェに入ってパフェを食べたり、土産物屋の売店で、ソフトクリームを買って食べたりした。甘い物三昧の1日だった。
 夕方になる前にホテルに戻って温泉に入ることにした。部屋にも風呂があったが、大浴場の方を選んだ。当然、女湯だ。
 秘書や妻と一緒に風呂に入ることは何度もやっているが、女湯に入るなんてことははじめての経験だ。ちょっと楽しみにしていた。もちろん、温泉に入るのも久しぶりだから、楽しみだ。
 土曜日ということもあってか、大浴場には結構な数の宿泊客がいた。
 おれは、湯船に浸かって、裸の女たちを観察した。意外に若い女の比率が高い。おれの秘書たちのようないい女はいなかった。おれの秘書たちは、美貌もスタイルも超一級品なのだということを改めて確認した。
 と言っても、おれの目の前を通り過ぎる女は、どれも、今のおれよりは胸の大きな女ばかりだ。中には、中学生ぐらいの女の子もいたが、その子にもおれの胸は負けていて、ショックを受けた。もちろん、かわいらしさだったら、おれの方が圧倒的に上だったが。
 おれは、少しだけ沈んだ気持ちで、大きな湯船におれの小さな体を沈めていた。お湯に体を沈めていると、体の中の老廃物が温泉に染み出していくような気がした。こんな気持ちのいい風呂ははじめてだった。
 風呂から上がって夕食までの時間、部屋に戻ってベッドの上に寝転がる。海際に建っているホテルなので、海が一望できる。
 風呂上りなので、体が火照っていた。
「んっ」
 自分で胸を触ってみたら、声が出た。ちょっと触れただけだというのに、相変わらず敏感な体だ。
 妻にかけられた呪のせいもあるのだろうが、元々、この体がそういう素養を持っていたのだと思われる。あの調査会社の男も言っていた。「男を知れば、感じやすく、ベッドの上で乱れまくるという淫乱な美女になる」と。確かにそんな感じだ。
 だが、もう一度、男に抱かれようとは思わない。あんな痛い目に遭うのは2度とごめんだ。いくらこの2日間は18歳の女の子として行動しようといっても、そんなアバンチュールな体験をしたいとは思わない。
 男なんていなくても、こうして自分で慰めるだけでも十分気持ちいいのだ。妻や秘書たちに抱かれるのも……。
「あ、あ、ああっ」
 思わず、声が出る。
 妻や秘書たちの前では、感じていることを知られたくなくて、いつも必死に声を殺しているのだが、ここでは、誰も聞いていないので、我慢する必要がない。むしろ、途中から積極的に声を出した。淫乱な女の子の声を。
「凄い、凄いよぉ。ひゃっ。か、感じちゃう。あんっ。あんっ」
 おれは、完全に女の子になり切って自分を責め続けた。
「あんっ。あっ。もう、我慢できない。――あ、あたし、イッちゃう!」
 ベッドの上のおれは、鋭い悲鳴を上げ、自分の指だけでおれをイカせた。


 夕食は下のレストランで海鮮尽くしだった。ウニ、イカ、ホタテ、イクラ。小娘の体は、魚介類は好物のようで、おれの体で食べるよりも美味に感じた。ひょっとして、「おれ」の体の小娘が肉ばかり食べるのは、自分の体に比べて、魚を旨いと思わないからなのかもしれない。
 料理はどれも旨かったが、如何せん、この体では量を食えない。もったいないが、半分以上残してしまった。
 ただし、デザートだけは死んでも食べる。メロンとアイスリーム。メロンは、夕張のような赤い果肉のもので、この近場で作っているらしい。地元の牛乳で作ったというバニラのアイスクリームも、濃くて甘くてうまかった。
 夕食後に、バスで函館山まで送迎してくれるツアーがあるというので、参加する。函館まで来て、夜景を見ないわけにはいかない。
 ホテルのロビーでバスを待っていると、見知らぬ若い女に声をかけられた。
「あんた、ひとりなん?」
 関西弁だ。見ると、茶髪に染めた20歳ぐらいの女が立っていた。人懐っこい笑顔でこっちを見ている。鼻のところにそばかすがあるのが特徴だ。ピンクのラフなトレーナーにパーカーを着込み、スニーカーを履いていた。
 どちらかというと、きれいというよりかわいい系。あくまで、どちらかと言えば、だが。
「さっきも、レストランでひとりで食べてたよね。夜景見に行くんでしょ。わたしも、ひとりなんよ。よかったら、一緒に行かへん?」
「は、はい」
 思わず答えてしまったが、考えてみれば、これから行くところは夜の山頂の展望台。夜景スポットだから、当然、暗い。観光客が多い場所とは言え、そんなところに小娘の体で1人で行くのは、危険ではないのだろうか? 若い女2人連れの方が安全度は増すに違いない。
(ああ、そうか)
 この関西弁の女も、おれと同じことを考えているのだろう。一瞬、こいつもこの間の地下鉄の痴女みたいなのではないかという不安が頭をよぎったが、まあ、あんなのが、そうそういるわけがない。
 おれが、「お願いします」と言って快諾すると、彼女はおれのことを値踏みするようにじっと見ていた。
「な、何でしょう?」
「高校生?」
「は?」
「だよね。いくらなんでも、中学生がこんなホテルのレストランでひとりでご飯食べてる筈ないし」
 どうやら、おれの歳がいくつか考えているようだ。確かに、今のおれは、どう見ても中学生ぐらいにしか見えない。
「18です。高校はこの春卒業しました」
 今の体では向こうの方が年上っぽいので、一応、敬語を使う。おれは、18歳の女の子なのだ。
「何、じゃあ、大学生? あ、社会人なんや。OLさんか。うわあ、ごめん。中学生思うてたわ。でも、めっちゃかわいいもんなあ。ちょっと立ってみて、立ってみて」
 よく喋る女だ、と思ったが、案外不快ではない。言われるままに立ち上がる。
「うわあ。めっちゃかわいい。このワンピースもよう似おうとる。お人形さんみたいやないの。ああ、あたしもこんな美少女に生まれて来たかった」
 何なら替わってやるよ、と思ったが、このよく喋る関西弁娘の体になっても仕方がない。
「でも、あんた、よう似おうとるけど、この服やと寒いんちゃうか?」
 そうなのだ。昨日薦められて買ったこのワンピースは、「北海道で着る」と言っておかなかったので、完全に東京の気候仕様。昼間は気温も低くなかったので大丈夫だったが、さすがに夜ともなると、冷えそうだ。着替えとしては、もう1着、昨日会社に着て行ったレディーススーツがあるが、こちらはスカートが秘書仕様。要するにミニなので、下手するとこっちの方が寒いかもしれない。第一、折角の旅行なのに、会社に行く服を着ていくのはかわいくないので、却下。ワンピースにスーツの上着だけでも羽織って行こうかと思ったが、鏡の前に立ったら、あまりにもワンピースと合ってなくて、似合わないので、即座に脱ぎ捨てた。かわいい服もいいが、他の服と合わせられないのが難点だ。
「カーディガンとか持ってへんの? あたしの貸したげてもええけど、あんたに似合うの、あるかなぁ」
 そう言っているうちにバスがやってきた。
「まあ、しゃあない。何とかなるやろ」
 おれは、関西弁娘に促されて、バスへ乗り込んだ。
 温泉地にあるホテルは、夜景の見える函館山とは離れたところにあるので、バスはしばらく函館の市街地をゆっくりと進む。彼女はそんなことお構いなしに、喋り続けた。
「あんたは、どっから来たん? 東京? そうなんや。東京のどこ? ――知らんな。ごめんな。あたし、東京の地理とかよう知らんねん。渋谷とか六本木とか言われても、どこにあるかわからへん。で、そこはディズニーランドとか近いん?」
「ディズニーランドは千葉県です」
「えっ、そうなん? だって、東京ディズニーランド言うやん。――まあ、それ言うたら、大阪空港も伊丹やから兵庫県やもんなあ。いや、これは前の彼氏から聞いて知ってんのよ」
 聞いていると、話に取りとめがないが面白い。
「え? あたし? あたしは、京都。京都言うても、向島言うて、南の外れの方な。寺? 寺なんて、ないない。ニュータウンやもん。有名な寺行こう思うたら、近鉄乗って、途中で京阪やら地下鉄やらバスやら乗り換えて行かんならん。不便なとこよ。東寺やったら、近鉄1本で行けるけど、あそこ、拝観料めっちゃ高いやん。あんなん、地元の人間が行くわけないって。せやのうても、五重塔、外から丸見えやし」
 相変わらず1人で喋り捲っている。
「京都でも南の方は不便なんよ。同じ京都市内の大学通ってるのに、めっちゃ時間掛かるもん」
「大学生なんですか?」
「あれ、言わんかったっけ? 今、3年生。こう見えても、京大通うてんのよ」
 そう言って、学生証を見せてくれた。自慢げだ。法学部の学生らしい。3年生ということは、妻と同い年だが、全然、雰囲気が違う。当たり前だ。どちらかというと、こういうのが普通で、妻みたいなタイプがそうそう世の中にいるわけがない。
 とは言え、おれは頭のいい女は大好きなので、この京大娘にちょっと興味を持った。確かに、こういうお喋りでおちゃらけた感だが、実は頭のいい女は結構いる。ただし、おれの会社の秘書の試験を受けに来ても、顔で落ちそうだ。体はまずまずなのだが。
「うわっ、何なん? 急に山道?」
 バスは、函館の市街地を通り抜け、函館山に差し掛かったようだ。しばらく右に左にカーブを切りながら上ると、やがて山頂の展望台に出た。
「なんやのこれ。めっちゃ、きれいやん」
 扇のように広がる白やオレンジの光の粒とそれを取り囲もうとする漆黒の海。光と闇とが、展望台から手を伸ばせば届きそうな程の眼下でせめぎあっている。函館の夜景の写真は何度も見たことがあるが、この広大さだけは写真では表現できない。
「きれい……」
 おれの口から思わず言葉が漏れる。
「何、うっとり呟いてんの、この娘は」
「え? い、いや、別にうっとりなんて――」
 思わず漏れた言葉を、隣で聞かれたようだ。
「やっぱり美少女は絵になるわ。あたしが『きれい』とか言うても、何言うてんねんって、どつかれるだけやどけど、あんたみたいな美少女が言うと、映画の1コマみたいやもんなぁ」
「そんなこと……」
 美少女、美少女とあんまり言わないでくれ。無性に恥ずかしい。
「よし、写真撮ろ」
 京大娘がおれにカメラを向ける。おれが戸惑っていると、夜景をバックに立つよう指示される。
 いいのか? 小娘の姿で写真なんか撮って。というか、おれが小娘の姿で映っている写真なんて、意味あるのか?
「こうして見ると、ほんまお人形さんやな。はい、チーズ」
 結局、5枚ぐらい撮られた。替わって、おれが京大娘を撮る。最後に、2人並んでいるところを通りがかりの観光客に撮ってもらった。それとは別に、彼女の携帯で自分撮りしたりして、結構な枚数を撮った。
「あとで、メアド教えてな。帰ったら、送ったげるから」
 メールアドレスなんて、教えて大丈夫か? 大体、おれと小娘と、どっちのアドレスを教えたらいいんだ? ていうか、小娘は、プライベートでは携帯なんて持ってないぞ。
 しばらく展望台から夜景を眺めていたが、風が強くなってきた。
「どないしたん? 寒い?」
 おれは震えながら「うん」とうなずいた。
「あたし、中入ってます」
 確か、展望台の下に土産物屋か何かがあった。
「じゃ、あたしも行くわ。上着着ててもちょっと寒なってきた」
 そう言って、彼女はついてきてくれた。
 展望台のすぐ下にカフェがあったので、そこに入る。さすがに夜景の見える窓際の席は埋まっていたが、奥の席に座って、取りあえず暖を取ることはできた。おれは、あったかいココアを飲んで、ようやく震えも収まった。
「そうそう。忘れんうちにメアド交換しとこ」
 そう言って、彼女が携帯を出す。おれも、釣られて、ポシェットから携帯を取り出した。
「うわあ、そのケータイ、全然イメージとちゃうなぁ。男の人のみたいやないの」
「え?」
 しまった。おれが取り出したのは、元々おれがプライベートで使っていた奴。真っ黒で無骨なデザイン。お人形さんみたいな美少女がこんなのを持っているのは、変だろう。
「これ、元々貰いものなんです。あたしがケータイとか持ってなかったので、『新しいの買ったからやる』って会社の人に言われて」
 苦しい言い訳だが、彼女は「ふーん」と言っただけで深くは突っ込んでこない。赤外線でアドレスを交換すると、早速、携帯で撮った写真を送ってきた。
「やっぱり……」
 わかり切っていたことだが、夜景をバックに京大娘と一緒に映っているのは、水色のワンピースを着た小娘の姿。おれは、「はあ」とため息をつく。
「何、ため息なんかついてるん? 写真、気に入らんかった? 結構かわいく撮れてる思うけど」
 かわいく撮れているから、ため息が出るのだ。画面に映る少女姿のおれは、にっこり笑っていたり、ピースサインをしたり、最後なんて、ちょっとカメラ目線で気取ってポーズを取っている。こんな写真、帰ったら即刻消さないといけない。万一、妻や小娘に見られでもしたら、恥ずかしくて死んでしまう。
 バスの出発まで少し時間があったが、彼女と一緒にこのカフェで過ごすことにした。
 ココアで体も温まったので、フルーツパフェを追加注文する。
「よう食べるなあ」
 おれは、18歳の女の子なのだから、とにかく機会があれば甘いもの食べまくる。
 京大娘が、おれがパフェを食べている写真を携帯で撮っている。
「おっ、これまた、ええ写真が撮れた」
「え? ちょっと、やめてくださいよ。恥ずかしい」
「ええやん、ええやん。恥ずかしがらんでも。しかし、あんた、ほんまかわいいわあ。昔からな、あんたみたいなかわいらしい妹が欲しかったんよ」
「ひとりっ子なんですか?」
「ちゃうよ。妹が2人おる。あんたと違うて、これがまた憎たらしい」
 そんなこと知らんがな、と心の中で関西弁で突っ込む。
「あんたと違うて、あたしより背高いし、かわいい服似合わんし、口も悪い」
「はあ」
「おまけに、京都弁で喋りよる」
 そりゃ、そうだろう。
 そう言うと、彼女は指を立てて「ちゃうちゃう」と左右に振った。
「うちのおとんは神戸で、おかんは奈良の生まれなんよ。あたしが生まれたの大阪で、小学校6年のときに京都に引っ越したから、あたしの言葉はちゃんぽんになってんの。妹たちは、ちっちゃいときから京都やから京都弁で喋りよるわけ」
「はあ」
 同じ関西弁でもいろいろ違いがあるらしいが、東京生まれで東京育ちのおれの耳には違いがよくわからない。
「その点、あんたは、ちっこくてかわいいし、そういうかわいい服もよう似合うし、おとなしいし、標準語で喋る。あたしは、こういう妹が欲しかったんやと、うちに持って帰って、妹たちに見せてやりたい」
 彼女は、余程おれのことが気に入ったらしい。おれと言うよりも、実際には小娘の体が、というべきだろうが。
「ところで、あんた、明日はどないするん?」
「特に予定はないですけど。夕方の飛行機で東京へ帰るだけです」
「ほな、一緒に観光しよ。実はな、あたしも一人旅ってはじめてなん。ほんまは、友達と一緒に来る予定やったんやけど、その子が39度9分の熱出してん。そこまで熱出すなら、もうちょっと頑張って40度まで行け、言うたんやけど、『ごめん、それどころやない』とか言われてもうた。冷たい友達やろ。あ、熱出てるから、ほんまは熱いんやけどな」
 また、話が脱線している。おもしろいからそのまま放っておくが、そのうちちゃんと元に戻るから不思議だ。
「友達が行かれへんのなら、あたしもキャンセルしよか思たけど、直前やったから、お金、ほとんど返ってきいへんねん。しゃあないから、あたしひとりで行こ、ゆうて来たわけ。まあ、関空でキャンセル待ちしてたおっちゃんに友達のチケット売ったったんで、ちょっとは戻ってくるんやけどな」
 相変わらず、次から次へとよく喋る。
「で、あたし1人で来たわけやけど、どうもあかん」
「何がです?」
「喋りかける相手がおらんのは、つらい。今日は1日中1人やったから、だあれも話し相手がいてない。さっき言うた友達に電話しよか思うたけど、旅行行かれへんで寝てる子に『今、函館にいてんねん。天気ええよ。景色きれいやよ』言うて電話するわけにもいかんやろ。結局、今日は、誰とも話してないねん。ずーっと1人で黙ったまま。ほんま、もうちょっとで孤独死するところやだったんやで。旅先で死んでもうて、新聞に死因・孤独死なんて書かれてみ。また妹たちに笑われてまうわ」
「孤独死というのは、死因じゃないと思います」
「ええっ、そうなん? 窒息死とかショック死みたいなんとちゃうの?」
 バスの時間までカフェで過ごし、バスに揺られてホテルに戻った。この間、ずっと彼女とこんな感じで話をしていた。というか、彼女の話をほぼ一方的に聞いていた。他愛もない話ばかりだったが、妙に彼女といると、楽しかった。おれのことをやたらと「かわいい」と言うのには、どう答えていいかわからなかったが、褒められているわけなので、悪い気分でもなかった。


 翌日は、8時に起きたら、彼女からメールが入っていた。発信時間は午前6時12分。
「散歩行かへん? 海、めっちゃきれいよ」
 2時間も前のメールなので答えようがない。仕方がないので、「今起きました」とメールする。
 すぐに携帯が鳴った。
「何寝てたん。折角旅行に来たんやから、早起きして、もっと時間を有効に使わんと。あんたがいてないから、散歩の途中で孤独死しそうになったやないの」
「だから、孤独死は病気じゃないですって」
 彼女は、海辺を散歩して、散歩から帰ってひと風呂浴びてきたところだった。
 朝食に行こうと誘われた。下のレストランの入り口で待ち合わせることにする。
 レストランに下りていくと、京大娘が既に待っていた。ピンクのラフなトレーナー姿。昨夜と同じ格好だ。
「おはようございます」
 おれの挨拶で彼女がこちらに目を向けた。おれの姿を一目見るなり、彼女は口をぱっくりと開けた。
「な、何やの、その格好は?」
「何って、ジャージですが」
 朝食であの水色のワンピースというのもどうかと思ったし、かと言って、部屋に備え付けの浴衣に羽織というのもこの体では似合いそうになかったので、小娘がいつも寝巻き代わりに着ているジャージを着てきたのだ。
「あかん。それは、あかん。あんたのような美少女が、そんなダサいジャージ着るんは、神への冒涜や」
 まあ、確かにダサいが、朝食ぐらいこれでいいだろう。昨日の夕食のときも、ラフな格好の客がたくさんいた。
 よく、「美人は何を着ても似合う」と言うが、あれは、どうも嘘だ。小娘のようなタイプだと、確かにかわいい系の服は何でも似合うが、それ以外は何を着ても、似合わない。昨日から散々「美少女」と囃し立てられている小娘も、屋敷で普段着を着ていたときは地味な少女にしか見えなかったし、この体で会社にはじめて行ったときのレディーススーツなんて、悲しくなるぐらい似合っていなかった。
 朝食はバイキング方式。先に料理を持ってきて、テーブルで待っていると、彼女が遅れてやってきた。
「何、それで全部?」
 おれの朝食は、ヨーグルトとレタス2枚、それにオレンジジュースだけ。小娘の体は、朝から炭水化物を摂取したら、その日1日何も食べられないということがわかってきたので、最近の朝はいつもこんなものだ。これでも、レタス2枚とがんぱった方だ。
「ダイエット中なん? え、ちゃうの。いつもこうなんや。減量中のボクサーか思うたわ。やっぱり、ちっちゃくて細い子は小食なんや。あたしも見習ってダイエットせんとあかんなあ」
 そう言う京大娘は、トーストにクロワッサン、玉子焼きがあって、サラダがあって、ウインナーがあって、フルーツがあって、スープがあってと、トレイからはみ出そうなぐらいの料理を載せている。
「だって、バイキングよ、バイキング。1品でも多く取らんと損やないの」
 おれは、あっという間に自分の分を食べてしまって、彼女が食べ終わるのを待つ。待っている間も、相変わらず彼女が取り止めのない話をするので、楽しい。もっとも、それで余計に時間がかかるのだが。
 彼女の皿の上の料理が徐々に減っていき、きれいに平らげられた。ようやく終わったと思ったら、彼女が言う。
「ほなら、おかわり取ってこ」
 まだ食うのか。さっき、「ダイエットせんとあかんなあ」とか言っていたばかりだろう。
 おれも、手持ち無沙汰になったので、席を立って、キウイとグレープフルーツを1切れずつ取ってきた。
 京大娘は、おかわりも全部平らげ、席を立つ。
「また、おかわりですか?」
「さすがにもう食べられへん。最後に飲み物もろてくる」
 彼女は、「最後」と言いながらも、オレンジジュースとグレープフルーツジュースと牛乳を持ってきた。
「それ、全部飲むんですか?」
「だって、もったいないやん。それに、朝からこんな品数揃うたご飯なんて、うちでは絶対食べられへんから。無理にでも、詰めこんどかんと」
 無理に詰め込んで、後で苦しむぐらいなら、程々にしておいて、後からうまいものを食えばいいと思うのだが、20歳の大学生では、持っている金はたかが知れている。それで、こんな貧乏くさいことになるのだろう。
 朝食の後、風呂に誘われた。
「さっき、入ったんじゃないんですか?」
「温泉来たら、何度でも入らんとあかんねん。何回入っても、料金同じやしな」
 やっぱり、貧乏性だ。
「あんた、まさか1回しか入ってないなんて言わんやろな」
「一応、昨日は食事の前に大浴場に入って、夜景から帰った後にも、ちょっとだけ部屋の露天風呂に入りましたけど」
 おれがそう言うと、京大娘の目元がピクリと動いた。
「ちょっと待ち。あんた、今なんて言うた?」
「は? 昨日は2回お風呂に入ったと」
「回数なんて、どうでもええ。どこに入った、訊いてんねん」
「だから、大浴場と部屋の露天風呂に」
「そこや!」
 突然、大きな声を出したかと思うと、京大娘の顔がにんまりと歪んだ。ちょっと怖い。
「あんたの部屋、露天風呂ついてんの?」
「はあ、ついてますけど」
 そう言えば、旅行会社で勧められるままに予約をしたのだが、「露天風呂付きのお部屋にしますね」とか言われたような気がする。まあ、普通は20歳の大学生の旅行だったら、格安のパック旅行だろうから、部屋に露天風呂なんて付いてないだろう。
「よし、わかった。あんたの部屋の露天風呂に入ろ」
「ええっ」
「ほな、こうしよ。今から15分後にあんたの部屋に行くから、それまでに見られたらまずいもんは片付けときや」
 見られたらまずいものって、旅先だし、そんなものない。――ないよな。
 半ば強引に話を進められたが、おれの方としても、この京大娘とは一緒に風呂に入ってみたいとは思っていた。トレーナー姿しか見ていないが、結構いい体をしているように思う。
 15分経たないうちに、京大娘がおれの部屋にやってきた。
「何なん、ここ。建物もあたしんとことは別棟やし、廊下の感じからして高級感あるもんなぁ。うわ、なに、この広さ。なんで、こんなとこに1人で泊まってるの?」
 このホテルには1人用の部屋なんてないので、2人用の部屋を取ったのだ。部屋付きの露天風呂も、2人同時に入れるような大きさだ。
「あたしの部屋なんて、ちょっときれいなビジネスホテルみたいな部屋なんよ。あんた、この部屋、いくらしたん?」
「いくらって、飛行機代とセットだったから――」
 旅行会社で払った金額を正直に言ったら、京大娘が目を丸くした。
「えっ、マジで? それ、1人分やろ。あたしら2人分の倍以上してるやん。あんたひょっとして、どこぞのお嬢か?」
「えっ? そ、そんなことないけど」
「せやかてなあ、いくら給料もろてる言うても、高卒1年目のOLが旅行にそんな大金、使えんで。――はっ、まさか、あんた……」
「は?」
「いや、これ以上は訊かんとこ。それがお互いのためのような気がしてきた」
 何だか知らないが、向こうで勝手に勘違いして、納得してしまったらしい。まあ、どんなに想像力豊かな人間でも、目の前にいる18歳の少女の正体が、35歳の男盛り。上場企業の社長だなんて、わかる筈もないが。
 おれは、彼女を露天風呂の方に案内する。
「うわ。ほんとや。部屋に露天風呂がある。豪華やわあ。信じられへん。よし。早速、入ろ」
 そう言うと、彼女はさっさと服を脱ぎ出した。恥じらいも何もないが、相手は年下の少女だと思っているとすれば、こんなものかも知れない。
「あんたもさっさと脱ぎ。恥ずかしいんか? 恥ずかしがることあらへん。女同士やないか。はよ脱がんと、おっちゃんが、身ぐるみ剥いでまうで」
 なんだ、この女。こいつこそ、中身おっさんが入っているんじゃないのか? これだったら、おれの方がよっぽど女らしい。
「また、かわいい下着やなあ。よしよし。お姉ちゃんが脱がしたろ」
「自分で脱ぎますから、ほっといてください」
 服を脱いで、一緒に露天風呂へと出る。
 京大娘は、口は悪いが、なかなかいい体をしていた。
 胸は妻よりもひと回り大き目。Dカップというところだろうか。腰まわりもふくよかでいい感じ。太腿も、肉感があって、そそる。おれは、小娘みたいな細い体よりも、こういう適度に肉がついている方が断然好みだ。ただ、惜しむらくは、顔が美人顔ではないし、そばかすがあるのも減点だ。
「うわぁ、凄いわ。海が見える。気持ちええなあ」
 風呂は檜造り。京大娘は、裸になって、檜風呂の縁に立ち、両手を広げて海を見ている。海が見えるということは、海からもこっちが見えるということなのだが、そんなとこに立って、大丈夫なのか?
 おれは、彼女のことは放っておいて、湯船に浸かる。
 うん。温泉のお湯が、おれの若い肌にしみ込むようで、気持ちいい。
 しばらく、裸で海を見てはしゃいでいた京大娘だったが、飽きたのか、それもと寒くなったのか、湯船に入ってきた。
「なかなかいい湯加減やないの」
 彼女が湯船の中で立ったまま言う。おれの目の前に形のいい丸い乳房が2つ。
「おっきい」
 思わず呟いた。
「えっ、なになに? こういうおっぱい好きなん?」
 しまった。聞かれてしまった。
「い、いえ」
「よし。じゃあ、おっぱい、見せっこしよか。ほらほら、ちょっと、立ちいな。――うわ。ちっちゃ」
 ちょっとムッときた。
「あれ、怒った? ははあん、気にしてるんだ。胸ちっゃいこと」
「そ、そんなことは……」
「まあ、ええやん。あんたは、こんな肌は白いし、すべすべやし、美少女やし、ほんと、どっかのお姫様みたいやわ。これでおっぱいまでおっきかったら、バチ当たるで」
 そう言って、彼女は、どっかりと湯船に腰を下ろす。お湯が檜の風呂から音を立ててこぼれた。
「ああっ、これ、ええなあ。あたしこうやってお湯をざばーんってこぼすの、好っきゃねん。大浴場もええけど、ちっちゃいお風呂は、これができるからええよなあ。うちのお風呂でもやりたいんやけど、おかん、『お湯がもったいない』言うて、やらしてくれんのよ」
 風呂の中でも、京大娘はずっと喋り続けた。きっと、この女は命ある限り喋り続けるのだろう。
「もう出ます」
 そう言って、立ち上がる。放っておくと、本当に風呂の中で永遠に喋っていそうだったので、適当なところで出ることにした。
「ああ、せやな」
 続けて、彼女も立ち上がった。風呂桶の湯が随分減っている。
「ねえ、ちょっと、こっち向いてくれへん?」
 言われて、何気なく振り向く。裸のまま彼女と向かい合った。こうして見ると、背は妻よりは高いが、秘書たちには及ばない。
「きゃはっ!」
 そう言って、いきなり彼女がおれに抱きついてきた。
「ひゃっ」
 おれのふくらみかけの胸に、彼女の大きくてやわらかい胸が押し付けれた。そのまま、彼女にぎゅっと抱きしめられて、感じてしまう。
「な、何を――」
「ぷはーっ。堪忍な。折角、こんなお姫様みたいな美少女とお風呂入ったんやから、1ぺんぐらい抱きしめとかなあかんかな、思うて」
「そんな」
 おれは、ちょっとふくれて、もう一度しゃがみこんで、湯船に浸かる。
「あれ? こめん。怒った?」
「当たり前です。びっくりしました」
「ごめんな。そんな悪気はなかったんよ。あんたんこと見てたら、なんか急に、むらむらっと来てな」
 おいおい。本当にこの女の中身、おっさんじゃないのか?
「な、機嫌直そ。せや。だったら、お姉ちゃんの自慢のおっぱい、揉ませたる。それで、どや?」
「ホントに?」
「ああ。ほんま、ほんま。お姉ちゃんのおっぱい、揉み応えあるで」
 おれは、おもむろに立ち上がる。京大娘の大きな胸をじっと見て、彼女の後ろに回った。
「なに、後ろから揉むの?」
「この方が揉みやすいから」
「おっ。本格的やな」
 おれは、彼女の後ろから手を回し、おれの手に余る2つの乳房を愛撫した。時にやさしく、時に濃厚に。乳首を弾いたり、転がしたりして刺激を与える。
「感じる?」
「んなわけあるかい」
 あっさり言われた。ちょっと、ショックだ。
「お嬢ちゃん、残念ながら、あんたはまだ初心者や。女の子のおっぱいの扱い方というのがわかっとらん。中学校からやり直して来や」
 彼女は冗談っぽく笑ったが、おれは、言いようのないショックにうちひしがれた。今のは、結構自信があったのに……。
 そんなおれを残して、彼女は、大きな胸を揺らしながら大股で風呂場を出て行った。


 彼女は一旦部屋に戻って着替えてくるという。着替えたら、すぐにロビーで待ち合わせにしようと彼女は言ったが、おれは「準備があるから」と待ち合わせ時間を1時間後に変えた。
 彼女の前では一旦服を着たおれだったが、彼女が出て行くと、着たばかりの服をもう一度脱いだ。
 ピンクのかわいらしい下着もすべて脱ぎ捨てて、1人でベッドに横たわる。
 おれは、おれのふくらみかけの2つの乳房を愛撫した。時にやさしく、時に濃厚に。乳首を弾いたり、転がしたりして刺激を与える。さっき、彼女の乳房に対してしたのと同じように。
「あんっ!」
 おれは、おれの指がおれの胸の上で動くたびに鋭い声をあげた。
「凄いっ。感じる。こんなに、感じるのに――」
 おれがこんなに感じているのは、なぜだろう?
 おれの指のテクニックが凄いから……ではないらしい。
 おれの――小娘の体の感度が物凄いからだ。多分、この体は、赤ん坊に乳房をまさぐられても、感じてしまうに違いない。
 その残酷な事実を突きつけられてしまっても、おれのこの体は、更なる快感を求めることをやめてくれなかった。
 おれは、おれの稚拙な指遣いでおれの体を責め続け、おれの体から無限に湧き上がってくる快感の虜になっていた。


 ホテルを10時過ぎにチェックアウトした。
「あんた、それ、一張羅なん?」
 京大娘がおれの着ている水色のワンピースを指差して言う。昨夜、函館山に行ったときと同じ服だ。
「着替えとか持ってきてへんの?」
「はあ」
 昨日着た服だったけど、別に、特別汚れてもいないし、今日も同じ服にしたのだが、女の子の旅行というのは、毎日違う服を着るものなのだろうか。
「さっきの部屋見たら、お金持ってるような感じやけど、寝巻きはだっさいジャージやし、そうでもないんやろか」
 彼女はひとりでぶつぶつ言ってる。何だか知らないが、おれの素性を見極めかねているようだ。
「だって、この服、お気に入りだから……」
 取りあえず、そう言っておいたら、「うんうん」と勝手に納得してくれたみたいだ。
「確かに、そのワンピはよう似おうとるな」
 彼女は、突然おれにカメラを向けて、おれが避ける間もなくシャッターを押す。撮れたばかりの画像をおれに見せて、彼女は言った。
「で、あんたはこれのどこが気に入ってるん?」
 カメラのディスプレイには、おれのかわいらしいワンピース姿が映っている。
「え? どこって。ええっと――かわいいとことか」
「うわっ。言ったよ、この子。自分で自分のことかわいいって」
「そ、そうじゃなくて、服がかわいいなって……」
「やっぱ、そうなんや。そりゃこんだけ美少女やったら、自分がかわいいって自覚あるわな」
「だから、そうじゃなくてですね」
「毎日、鏡見て、キャー、かわいい、とか言ってるんやろなあ」
「そんなこと言ってませんっ」
「怒った顔もかわいいな。これも撮っとこ」
 完全に、遊ばれてる感じだ。
「もう、いい加減にしてください。――それより、どこ行くんですか?」
 おれは、何の予備知識もなく、突発的にやってきただけだが、彼女は事前に、函館の名所について調べてきたみたいなので、今日は1日彼女について回ることにしていた。
「せやったな。まあ、函館言うたら、定番やけどあそこに行かなしゃあないな」
 彼女は、小さなノートを取り出して、それを覗き込みながら言った。何でも、このノートに事前に調べた函館のありとあらゆる情報が詰まっているのだそうだ。
「あそこって?」
「函館山」
「昨日、一緒に行ったじゃないですか」
 おれがそう言うと、彼女は指を立てて「ちゃうちゃう」と左右に振った。
「確かに、函館山の定番は夜景。でもな、夜景だけ見て満足してるようでは素人。プロは昼間の函館山にも行って両方楽しむ、と、どこぞのホームページにも書いてあった」
 彼女のノートを見ると、パソコンで印刷したと思われる紙がノートに張ってある。印刷は白黒だが、マーカーでカラフルに色づけされていたり、サインペンで書き込みがしてあったり、イラストが書いてあったりと、なかなかきれいなノートに仕上がっている。こういうのを見ると、さすがに京大生だと思う。
「それじゃ、早速、タクシー乗って行きましょう」
 おれが、ホテルの前のタクシー乗り場に行こうとすると、彼女がおれの前に立ちふさがった。
「何、若いもんが贅沢言うてんねん。市電の停留所がすぐそこにあるから、それで行こ。無駄遣いはあかん」
 結局、30分も市電に揺られて、ようやくロープウェイ乗り場の最寄の停留所に着いた。
「ロープウェイなんて、どこにも見えないんですけど」
 彼女は、お手製のノートを見て「こっちや」と言って、歩き出す。
 彼女の指示した道は、とんでもない坂道だった。しかも、上り坂の。
 坂というよりも、壁を少し倒したような急斜面だ。
「これ、上るんですか?」
「せやな」
「ここからでも、タクシー拾いませんか」
「あんた、何言うてんねん。ここまで来てタクシーって、お金、もったいないやろが」
「あたしが出しますから」
「あかん。あんたはあたしより年下やから、いくらなんでもあんたに奢ってもらうわけにはいかん」
「じゃあ、割り勘で」
「せやから、もったいない、言うてるやん」
 駄目だ。話が堂々巡りだ。
 仕方がないので、壁のような坂をひたすら登る。小娘の体は小さいから、当然足も短い。靴だって、平地はともかく、坂道を登る機能性なんて皆無の見栄えがいい靴だから、大変な苦行だった。
 何とか必死にロープウェイ乗り場まで坂を登りきった。振り返ると、海に向かって転げ落ちそうな坂道が続いていた。よく、こんな坂を登ってきたものだと自分でも驚く。小娘の体は、小柄で力はないが、家政婦をやっていただけあって、そこそこの体力はある。
「着いた!」
 その場で地面に倒れこんでしまいそうになったが、今の自分がワンピース姿だったということを思い出して、踏み留まる。
「取りあえず、休憩しましょ」
「何言うてんの。こんなとこで休まんでも、ロープウェイで上まで行って、景色見ながら休めばええやん」
 それはそうだ。
「ほな、切符買お。往復な。そっちのが安いから。あ、それから、ちゃんとこれ見せて買うんやで」
 そう言って、1枚の紙片を渡された。「搭乗割引券」とある。
「どうしたんですか、これ?」
「さっきのホテルのフロントに置いてあったの、気付かんかった? これ見せるだけで、100円も安うなるんよ。これ使わんで、どうすんの」
 こいつ、がさつなお喋り女だとばかり思っていたが、案外、細かい。
 ロープウェイは、あっという間に山を登っていく。間近の木々を見ていると、結構なスピードが出ているということがわかる。
 出発してすぐに、海に挟まれた函館の街が見えた。ものの数分で頂上に着く。こんなに速いんだったら、あとほんのちょっと延ばして、坂の始まるところに駅を作ってくれたらよかったのに、と思った。
 昨日も来た函館山だが、昼の景色はまったく違う。漆黒の海と光の街は、青い海と色とりどりの建物、そして、ところどころの緑に変わっていた。
「昼間もなかなかええやん」
「天気いいから、海がきれいですね」
 しばらく屋外のベンチに座ってのんびり過ごした。昨日は冷たかった風が、今日は気持ちいい。
 昨夜はバスで来たからわからなかったが、展望台はロープウェイ乗り場の屋上だったようだ。景色を堪能して、下に降りていく。昨日はカフェでココアとパフェだったが、今日は、売店でソフトクリームを買った。
 ロープウェイで山を下りて、元来た坂道を下るのかと思ったら、「こっちや」と言われて脇道に入っていく。このあたりは古い洋風の建物が多いらしい。その中に、教会があった。尖った屋根や白い壁が美しい。写真を撮っている観光客が結構いるので、有名な教会なのだろう。教会の中を見学して、出てきたところでお昼になった。
「さて、お昼ご飯、どないしょ? 駅に出て朝市で巴丼にするか、赤レンガ倉庫あたりの店にするか、いっそ、地元民が行くようなとこにするか。サブちゃんと千代の富士とGLAYが贔屓にしてる寿司屋ちゅうのも行ってみたいけど、これは車でないと無理やなあ」
「はーい、先生」
 と、おれは、かわいらしく言って手を挙げる。
「なんだね」
「甘くて美味しいデザートがあるお店がいいと思いまーす」
「デザートやのうて、メインで食うもんを言わんかい」
 京大娘がおれの頭をげんこつで軽くこつんと叩いた。
 彼女は、手製のノートをめくって、あれこれ考えていたが、ふと何かに気づいたように彼女の動きが止まった。
「ちょい待ち」
 彼女が声を落として言った。
 何か、思いついたみたいだ。それも、よからぬことを。
「今の話やけど、甘くて美味しいデザートがある店なら、ほんまにどこでもええか?」
「は、はい」
「なら、ちょっとの間、なるべく黙っとき。口開くときは話を合わせてな。そうそう。あたしのケータイ、あんたのポシェットの中に入れとき。あたしがケータイ出せ言うたら、あたしのかわいいやつを出すんやで。間違っても、あの真っ黒いのなんか出したらあかん。あとは、と――。せやな、あんたはあたしの妹ゆうことにしとこか。あたしのことは、お姉ちゃんて呼ぶんやで」
「何か企んでますね」
「ちょっと、お昼ご飯調達しよう思うてな」
 そういって、京大娘はいかにも腹黒そうに笑う。
「でも、あたし、関西弁なんて喋れないんですけど」
「せやったら、いとこにしとこか。あたしは京都であんたは東京に住んどるいとこな。あたしのことは、お姉ちゃんて呼ぶんやで」
 何をするつもりかわからないが、取りあえず、おれに「お姉ちゃん」と呼ばせたいらしい。
「ちょっと、すいませーん」
 彼女は、さっきまでの腹黒い顔から、一転、にこやかな笑顔になって、おれたちの近くにいた若い男2人組に声をかけた。大学生ぐらいだろうか。顔立ちも服装も地味な男たちだ。どう見ても、女にモテそうなタイプには見えない。1人が旅行ガイドを持っているから、どこかから来た観光客だろう。
「写真撮ってもらっても、いいですか」
 そう言って、彼らにカメラを渡す彼女。操作方法を教えて、おれと一緒に教会の前に立つ。2枚ぐらい写真を撮ってもらったが、別に、写真を撮ってもらいたくて声をかけたわけではあるまい。
「ありがとうな。せや。ついでやから、あんたのケータイでも写真撮って貰い」
 おれは、彼女に言われるまま、ポシェットから彼女のケータイを取り出して、男に渡す。
「あーあ、この娘は、なーんも言わんと渡して。使い方教えたらなわからんやないの」
 そんなことを言われても、おれのじゃないから、使い方なんてすぐにはわからない。
「ごめんな。この子、男の人と話したことないから、恥ずかしがってんねん。ええっと、これで、ここを押せばええの?」
 彼女がおれに同意を求めてくるので、適当にうなずいておく。再び2人でポーズを取って、写真を撮ってもらう。
「ありがとうな。ほらほら、あんたも、ちゃんとありがとう言わなあかんで」
「あ、ありがとうございます」
 彼女のケータイを返してもらうときに、そう言って、ぺこっと頭を下げた。男たちの顔が少し赤くなっている気がする。
「お兄さんたち、ついでにそのガイドブック、ちょっと見せてくれへんやろか。実はな、これから朝市行って、お昼に巴丼食べよて決めてたのに、この子が急に『甘くて美味しいデザートがある店がいい』とか言い出すんよ。わがままやろ。そんな、急に言われてもわからんがな」
 何だか、勝手におれがわがまま娘にされてしまっている。
「せやけど、ほんまにええんか?」
 今度は、彼女はおれに向かって言う。
「こんなガイドブックに載ってるような店は、ランチでも結構するで。店によっては、タクシーでないと行かれへんとこもあるから、タクシー代かかったらどないすんの。あんた、お小遣い少ないんやろ。今月のお小遣いなくなってまうかも知れんけど、ええんか?」
「あ、あの……」
 男の1人が口を挟んでくる。
「あ、ごめんな。もうちょっとだけ見させて」
「いや、ぼくたち、この辺りをひと回りしてくるから、よかったら、その間にその本、見てもらってていいから」
 男たちはそう言って、逃げるようにして教会の裏側に向かって歩いていく。
 彼らが遠ざかるのを確認して、京大娘が言った。
「まったく、はっきりせん奴らやなあ。イライラするわ」
「はあ」
「もっとすぱーっと、奢ったるからついて来い、ぐらいのこと、言えんのやろか」
「やっぱり、奢らせるつもりだったんですか」
「当たり前やないの。あの2人、函館山にいるときから、こっちをチラチラ見てたで。と言うても、見てたんは、あんただけやろうけどな」
 そうなのか。全然気付かなかった。ということは、あの2人、おれに気があるということなのか?
「ひょっとして、あたしたち、つけられてた?」
 もしそうだったら、そんな奴と関わるのはちょっと怖い。
「ちゃう。あの2人は車で来てんねん。展望台で、車のキー持って駐車場の方から歩いてきよった。ここで会うたのは、たまたまや。まあ、も一回あんたと会えたらええなあ、ぐらいのことは思うてたやろけど」
 よく見てるな。やっぱり、この京大娘、見かけによらず頭の回転が速い。
「まあええわ。取りあえず、お互い作戦タイムや。向こうは、今、あたしらをお昼に誘うかどうか、相談してるとこや。ええか。向こうが『奢る』言うまで絶対に妥協したらあかんで。これは、女子チームと男子チームの絶対に負けられへん戦いや」
 おれは、女子チームの方に入れられているのか。まあ、仕方がない。今のおれは18歳の女の子だからな。
「それから、奢って貰っても、ケータイの番号とかメアドとか、個人情報は、絶対に教えたらあかん。教えたら、あたしらの負けやからな。せや。今のうちに、偽名考えとき」
 なんだかえげつないなぁ。
「取りあえず、このイタリアンの店の2000円のランチにしとこか。あんまり高いと、向こうもその気になってまうからな。2000円ぐらいなら、遊び代やと思うたら納得する金額やろ。あんたも、タダ飯食わせてもらうんやから、ちょっとぐらいは愛想振りまいたりいな。やりすぎはあかんけど」
 何だか、話が怪しい雲行きになってきた。
「あの人たち、車で来てるんですよね。レストランまでは、あの人たちの車で行くんですか?」
「まあ、折角やからな。あいつらの車で行って、帰りも駅かどっかまで送ってもらお」
「知らない男の人の車なんて乗って、大丈夫なんですか?」
「あいつら、ヘタレやから、そんな度胸ないて。まあ、ちょっとした冒険やと思うて楽しめばええやん」
 なんで、たかだか2000円の食事代を浮かせるために、そんな緊張感に満ちた駆け引きをしなきゃならんのかと思ったが、彼女は自分で言うとおり、この状況を楽しんでいるみたいだった。今更、タクシー代もランチ代も全部おれが奢ると言っても、納得しないだろう。
「あ、それから」
 まだ注意事項があるらしい。
「あんた、まだ1度もあたしのこと『お姉ちゃん』って呼んでへんやないの。ちゃんと、呼んでくれなあかんよ」
 ひょっとして、この一連の流れは、おれに『お姉ちゃん』と呼ばせることが最大の目的じゃないのか? そもそも、おれが話すことなんてほとんどなかったから、彼女に呼びかける機会自体、なかったのだ。
「どっかいいとこ見つかった?」
 作戦タイム終えたのか、男2人が帰ってきた。
「ありがとな。このイタリアンのお店に行ってみようか思うてんの。この2000円のランチ、美味しそうやと思わへん?」
「ちょ、ちょっと待って」
 それだけ言って、彼らが後ろを向いて何やら話し合っている。多分、2000円というのは、想定を超えていたのだろう。逆に言えば、もっと安かったら、奢ってやろうという気になっていたということだ。
 となると、今後の交渉は難しくなる。京大娘は、このまま2000円で押し通すつもりなのだろうか? 多分、相手は、今、値切り交渉に入ろうか迷っているところだ。このまま、2000円で商談成立となるかもしれないが、こちらがそれで押し通した場合は、いきなり破談の可能性もある。そうなっては、元も子もないので、こちらから1500円ぐらいに値引きするという手もあるのだが、それでは、2000円のランチをみすみす逃しかねない――というようなことを、彼女は今考えているのだろうか?
 他人事のようにそんなことを考えていたら、京大娘がいきなりこう言った。
「あんた、2000円も出したら、今月の小遣いなくなってしまうやろ。このあと1ヶ月どうするつもりなん?」
 おい、そんなとこで、おれに振るんじゃない。
「え、ええっと……」
 口籠もってしまう。おれは、元々、女を落とすときは、最初から金と地位に物を言わせて、圧倒的な物量作戦で落としてしまうから、こういう微妙な駆け引きなんて経験がない。そもそも、落とされる側の立場になった経験そのものが皆無なのだが。
 取りあえず、彼女のこの発言は、こちらから値引きをするつもりはないということだろうから、何とかその意に沿ったことを言わないといけない。ああ、そうだ。そう言えば、さっき、『お姉ちゃん』と呼べとも言ってたな。
「お姉ちゃん、お金、貸してくれる?」
 なるべく、かわいい声で言った。おれが口を開くと、向こうを向いていた男共が振り向く。彼女の言うとおり、男共の目当てがおれだとしたら、ここは、ちょっとでもかわいいおれを見せ付けてやった方がいいに違いない。たかが2000円のために、こんなことを、という気持ちは無理矢理抑えておく。18歳の女の子に取って、2000円は大金だからな。実際には、おれは金に不自由していない18歳の女の子なんだが。
「あかん。あたしだって、苦しい中、バイトでやりくりしてるんやから。まあ、ええやない。1ヶ月、水道の水だけ飲んで過ごせば」
「ええっ。お姉ちゃん、ひどいですう」
「あ、あの」
 男の1人がおれたちの掛け合いに割り込んできた。
 これは、ひょっとして、釣れたか?
「そのレストランは、ぼくたちも行こうかと思ってたところなんだ。よかったら、一緒に行かない? 彼女のランチ代ぐらい、奢るから」
 おっ、釣れた。男の口から『奢る』という言葉が出た。だが、あくまで奢るのは、おれだけのつもりらしい。予算オーバーだったので、2人分を1人分に減らしたつもりなのだろう。
 京大娘の方を見ると、何も言わない、というか、口を開くつもりがない感じ。おれにもうひと押しさせよう、ということか。
「そんなの悪いですよ。それにあたしばっかり奢ってもらったら、お姉ちゃん、気を悪くして、不機嫌になるんです」
 今度は、彼女の方を悪者にしてやろう。おれは、言い終わった後で、小首を少し傾けてみる。どうだろう。こんなんで、かわいい感じが出せただろうか?
「いいよ、いいよ。もちろん、お姉さんも一緒で」
 どうやら、成功だったようだ。
 その後、「そんなの悪いです」「いや、いいって」というお決まりのやり取りが繰り広げられ、車での送迎と、2000円のランチ2人分ということで、商談が成立した。向こうが支払うものが明確なのに対して、こちらが提供するものが、いまひとつ不明確なのがちょっと不安な商取引だったが。
 駐車場に置いてある車を持ってくるというので、彼女と2人、それを待つ。
「しかし、あんたも、かわいい顔して、なかなかやるやないの。あ、かわいい顔してるから、できるんか」
 2人きりになった途端に、彼女がそう言った。
「もう、急にあたしに振ってくるから、びっくりしちゃったじゃないですか」
「しゃあないやん。あいつら、あんただけが目当てなんやから、そこはあんたにがんばってもらわんと」
 ということは、おれだけが奢ってもらうのならたやすかったところを、おれががんばって、彼女の分も確保してやった、ということにならないか? 要するに、彼女にしてみれば、濡れ手に粟というか、漁夫の利というか、そういう結果だった気がしてならない。
「あんたも最後はあの2人を手玉に取ってたもんな。将来は、いい悪女になれるで」
 何だ、「いい悪女」って。
「せやけど、あいつら、ほんまアホやな。車取りに行くんなら、『はぐれるといけないから、念のため、ケータイの番号教えといて』ぐらい言えばええのに。まあ、その程度のことやったら、適当にはぐらかすけどな」
 取りあえず、こいつは男の敵だな。
「あとは、適当にニコニコしとったらええから。デザート食べるときは、何も考えんと、素のまんまでもええよ」
 昨日から一緒にいてわかったそうだが、おれが甘いものを食っているときには、本当に幸せそうな顔をするらしい。
 若者2人組の車で市内のイタリアンレストランへと向かう。車内ではひたすら彼女が喋って、おれは相槌程度。彼らからも、最低限の情報は聞き出しておく。
 彼らは、埼玉から来た大学生。青森まで車で来て、昨日、フェリーで函館に上陸したらしい。これから、車で2週間ほど北海道を回る予定だそうだ。旅先をいいことに、適当に話をでっち上げるという発想もなさそうな奴らだったので、多分、本当のことだろう。
 対して、おれたちは、母親同士が姉妹のいとこ同士。彼女は京都でおれは東京。空港で待ち合わせて函館に遊びに来たということになった。彼女は京都の大学生というのはそのままだが、おれは、東京の女子高生ということにされた。お小遣いが少ない、なんてこと言ってたから、高卒社会人というわけにはいかないからだろう。それ以前に、今のおれの体は、社会人だと本当のことを言った方が嘘くさく見える。
 彼女のでっち上げる話を他人事のように聞いていたら、調子に乗って、おれのことを「小学校からずっと女子校育ちで、恥ずかしくて男の子と話せない」などと紹介されてしまった。喋らなくていいようにと思ってそういう設定にしたのだろう。
「女子校って、どこ?」
 突然、彼らから学校の名前を訊かれて、焦った。都内の小中高一貫の女子校なんてよく知らない。仕方なく、唯一知っている妻の出身校の名前を言ったら、更に食いつかれてしまった。
「そこって、有名なお嬢さま学校だよね」
「あそこの制服、かわいいよね」
「挨拶が、ごきげんよう、ってのは本当なの?」
「ひょっとして、君もお嬢さま?」
 急に生き生きと話し掛けてくる。なんだ、こいつら、制服マニアか何かか?
 大体、お嬢さまだったら、2000円のランチ食べただけで小遣いが足りなくなるわけないだろ。そう突っ込んでやりたかったが、そんなことを言うわけにはいかない。
 困っていたら、京大娘が助け舟を出してくれた。
「この子の父親、つまり、あたしの母親の妹の旦那な。それが、不動産業をやってるわけよ。この子がちっちゃい頃は、羽振りがよかったんで、あのお嬢さま学校に入れたんやけど、最近は不景気やろ。学費払うのも大変なわけ。かと言って、娘がお嬢さま学校やめて、公立の学校に転校した、なんて話が広まると、あの不動産屋は危ないんやないかと噂になって、商売にならんらしいのやわ。しゃあないから、今まで通りの学校に通ってるんやけど、そんな状態やから、お小遣いくれなんて、言えんわけなんよ」
 よくもまあ、ぽんぽんと嘘八百を並べられるものだ。こいつ、おれの会社で雇ってやったら、面白いかも知れないぞ。
「大体、不動産業なんてのは、どっか、胡散臭いとこあるに決まってるやんか。だから、ちょっとでも、悪い噂立てられたら、おしまいなんやて。あたしも、近所の不動産屋でバイトしったことがあるんやけど、そこも経営苦しくて……」
 お嬢さま学校の話から、強引に不動産屋の話に持っていってしまった。男2人は、呆気に取られて聞いている。
「――それに、こんだけ不景気やと、バイト探すのも一苦労やん。せっかく居酒屋のバイト見つけた、思うたら、3日目には店閉める言い出すんよ。こんな理不尽ある?」
 いつの間にか、話はアルバイトの話にすり替えられてしまった。取り止めなく喋っているように見える京大娘だが、ちゃんと頭の中で話を組み立てて、うまく話を誘導しながら喋っているようで、やっぱり、基本的には頭がいいのだろう。
 ランチは、地元の魚介類のサラダに、スープ。それにパスタ、ドリンク、デザートが選べるというものだった。おれは、カルボナーラとミルクティー。デザートはティラミスにした。小娘の体はチョコレートはあまり好きではないが、ティラミスにかかっている粉程度であれば大丈夫だろう。
 さすがに、2000円のランチはボリュームがある。サラダもカルボナーラも旨かったが、半分以上残してしまった。いくら、甘いものは別腹とは言っても、デザートの分はあけておかないといけない。
「あんた、こんにな残して、もう食べへんの?」
「お姉ちゃん、食べてもいいよ」
 取りあえず、『お姉ちゃん』と呼ぶ機会があれば、呼んでおく。そうしないと、あとでまた何を言われるかわからない。
「あたしも、もう食べられへん。ていうか、あんた、せっかく奢ってもらって残すなんて、失礼な子やな。――堪忍な。この子、昔から食が細くて、人の半分ぐらいしか食べられへんねん」
 京大娘が手を合わせて謝っているのに対して、男2人は、「いいよ、いいよ」と言っている。これも、お決まりの会話だ。
「もしよかったら、この子の残した分、食べてくれへん? あんたら、男やから、このぐらいでは足りへんやろ。――ほら、あんたからも、頼み」
 彼女に促されて、おれは、2人組に向かって言う。
「あ、あの。お願いします」
 おれが頼むと、即座に「じゃあ、ぼくが、パスタの方を」「だったら、オレはサラダを」とおれが食べ残した料理を皿ごと持っていって、食べ始めた。2人とも、何だか、嬉しそうだ。そんなに腹減っていたのか?
 最後に、お楽しみのデザート。ティラミスは、名前は聞いたことがあったが食べるのははじめてだ。まあ、甘いものが苦手だったおれに取っては、スイーツはかなりの確率ではじめて食べるものばかりなのだが。
 はじめてのティラミスは、ふんわりして、とろけるようで、実にうまかった。チョコレートの粉が載っていたが、この程度なら苦いもの嫌いの小娘の舌でも、大丈夫だ。今のおれは、スイーツなら、大抵のものはうまいと感じるのだが、これは特に気に入った。
 ティラミスの最後の1口を食べ終えて、しばらく幸せな気分に浸っていると、2人組から予想外の申し出があった。
「よかったら、これも食べてみない?」
 2人が食べていたのは、いちごムースのケーキとメロンのアイスクリーム。どっちもうまい。1口だけ貰うつもりが、半分ぐらい食べてしまった。
「すいません。こんなに食べちゃって」
「いいよ、いいよ」
 取りあえず、この2人、おれが頼めば何でも言うことを聞いてくれそうだな。
 さすがに、全部食べるのは可哀想なので、半分残して2人に返した。2人とも、おれが食い散らかしたデザートを嬉しそうな食べている。
「おふたりは、この後、どこへ行くん?」
 デザートを食べながら、京大娘が訊く。
「今日は、洞爺湖の民宿で泊まる予定」
「洞爺湖って、どこ?」
「札幌行く途中。あ、でも、まだ時間あるから、函館で行きたいとこがあったら、車で連れてってあげるよ」
 彼らは、もう少しおれたち――おれと一緒にいたい模様。
「ありがとな。でもな、あたしらこれから電車で青森まで行かなあかんのよ」
「青森?」
「そう。あたしらのおばあちゃんが青森に住んでんねん。――あ、もうこんな時間。そろそろ駅に行かんと」
 奢ってもらったら、もうこの2人組には用はないらしい。悪い女だな、こいつ。まあ、おれも悪事の片棒を担いでいるわけだが。
 結局、2人組には、函館駅まで送ってもらって、そこで別れることになった。
 駅までの道も、彼女が喋り倒して、2人組におれたちの連絡先を聞きだそうとする糸口さえ与えなかった。
「ごちそうさんな。ほんま、楽しかったわ。北海道旅行、楽しんできてな」
 そう言って、彼女は2人組と握手する。その流れで、おれも、彼らと握手。おれの手を握った途端、2人とも顔が赤くなった。
「それじゃ。また、どっかで」
 車が出て行くのを2人して見送った。
「はあ、やっと行ったわ。もうちょっと手強いかと思うたけど、ちょろい相手やったな」
 絵に描いたような悪女がそう言った。
「でも、ちょっと、可哀想だったんじゃないですか?」
「どこがやねん。あいつら、大喜びで帰っていきよったで。最後の握手なんて、あたしら、サービスしすぎちゃうやろかって、思うたもん。――うん。やっぱり、あれはいらんかったな。あんたがサービスし倒したもんな」
「あたし、何かサービスしましたっけ」
「うわっ。何やの、この子。あれ、天然やったんか」
 そう言われても、おれはよくわからない。
「ええか。あんたが料理を半分以上残したときに、あいつらに食わせたやろ。あのとき、あいつら、あんたが残した皿に載ってたフォークで食べとったやないか。あいつら『間接キッスだ』とか思いながら食べとったで」
 そうなのか。おれとしては、おれが使った食器でおれの食べ残した料理を誰かが食べたこと自体は、別にどうとも思わないのだが、それを喜んでやっていたと言われると、さすがにちょっと気色悪いな。
「ということは、デザートのときも」
「おんなじや。あんたに自分たちのデザート食べさせて、あんたが使ったスプーンで残りを嬉しそうに食べとった」
 げっ。最低だな、あいつら。
「まあ、そうでなくても、あんたがデザートをあんな幸せそうな顔して食べるんで、あの2人、アホみたいな顔してあんたのことぼーっと見てたで。あんたのこと、天使か何かやとでも思うとったんやろな」
「そうでした?」
「ほんま、この子、天然やわ」
 まあ、確かに、この体になってからのおれは、甘いものを食べているときは、注意力が散漫になる傾向があることは自覚している。ただ、あの秘書室長だって『お茶会』のときにはそうなることがあるんだから、女だったら、誰でもそうなんじゃないのか?
「ほんまは、2000円のランチを握手だけで済ますのは悪い思うてたから、最後にあんたと一緒に写真取らせてやろ、思うとったんやで。ああ、今思うと、やっぱり、あの握手はいらんかった。なんか、悔しなってきた」
 ていうか、あんたは握手以外何もしてないだろう? と突っ込みたくなったが、18歳の女の子としては、そんなことを言うわけにもいかないので、台詞をぐっと呑み込んだ。
「念のため、言うとくけど、さっき言うてたお嬢さま学校な。あんた、その学校には近寄らん方がええで。あいつら、あたしらの連絡先も何も聞いてないから、唯一の手掛かりのその学校であんたを待ち伏せしよう、思うかもしれんからな」
 そんな、恐ろしいことに。まあいい。おれは、あの学校に行くなんてことはないだろう。第一どこにあるのかも知らないのだから。万一、元の体に戻ってから小娘があいつらと会うことがあっても、小娘の方に記憶がないのだから、他人の空似ということで済ませられそうだ。
「さて、これからどないしょ?」
 まだ、飛行機の時間まではしばらくある。もうちょっと観光できそうだ。
「はーい、先生」
 とおれは、かわいらしく言って手を挙げる。
「なんだね」
「甘くて美味しいスイーツの店へ行くがいいと思いまーす」
「またそれか。てか、さっきデザート食べたばっかやないか」
「甘いものは別腹ですよ」
「あんたなぁ。奢ってもろうたランチを半分も残して、デザートばっか食ってると、バチが当たって、デブになってまうで」
 デブになる頃には、もうおれの体じゃないから大丈夫だ。というか、この小娘の体、もうちょっとふっくらした方がいいぐらいだと思う。
「実は、あたしはあと1ヶ月足らずの命なんです。だから、残り少ない寿命の中で、1つでも多くのデザートを食べないといけないんですよ」
「あー、わかった、わかった。しゃあない。行くか」
 結局、おれたちは、駅から海沿いをしばらく歩いて、港の近くにあるカフェに行った。おれが昨日1人で来たところだった。
「昨日はここでパフェを食べたんですけど、最後までブリュレとどっちにしようか迷ったんですよ。でも、やっぱり、ブリュレも食べてみたくなって」
 ということで、ブリュレを食べてみる。プリンのちょっと焦げたやつだろうと思っていたら、全く違った。普通のプリンよりも、濃くて甘くて旨かった。ああ。また、おれのお気に入りのスイーツが1つ増えてしまった。
 その後、彼女と一緒に港付近を散策し、日が傾きかけてから、空港へと向かった。
「楽しかったわあ。帰ったら、デジカメの写真もメールで送ったげるから」
「あたしの方こそ、楽しかったです」
 おれは、年下の女の子らしくそう言って、彼女に頭を下げた。
「ほな、またな」
 最後の最後まで喋り倒して、彼女は関空行きの搭乗ゲートへと消えていった。
 羽田行きの出発まで、あと40分。
 彼女には、「じゃあ、また」と言ったが、2度と会うことはないだろう。あと1月も経たないうちに、おれは、この少女の姿ではなくなっている。
 おれは、ポシェットから真っ黒い無骨な携帯を取り出した。いつの間にか、彼女からメールで送られてきた写真は、10枚以上にもなっていた。
 妻や小娘に見つからないよう、写真とメールを削除することにする。
 おれと彼女が函館山の夜景をバックに笑っている写真が、表示された。
『削除しますか?』
 おれの細い指が「はい」へとカーソルを移動させた。
 決定ボタンを押したら、この2日間の彼女との思い出が消えてしまうのかと思うと、なかなか、ボタンを押せなかった。
 随分長く迷った挙句、おれは、カーソルを「いいえ」に切り替えて、決定ボタンを押した。
「仕方ないか」
 おれは、携帯の設定画面を呼び出して、常時パスワードロックをかけるように設定を変更した。こうすれば、取りあえず、妻や小娘にこの恥ずかしい画像を見られることはない。
 携帯をポシェットにしまうと、羽田行きの搭乗のアナウンスがあり、おれは機上の人となった。
 18歳の女の子の休暇は、こうして終わりを告げた。

テーマ : *自作小説*《SF,ファンタジー》 - ジャンル : 小説・文学

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