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ヒロシの愛したシキ あとがき

もちろん、元ネタは、小川洋子の「博士の愛した数式」です。
最近の大ベストセラーで、映画にもなった超有名作品だし、タイトルもそのままなので誰でもわかるだろうと思っていたら、知らない人がいるみたいで、びっくりしました。
まあ、確かに、最近は何につけ、「売れてる=誰でも知ってる」というわけじゃないですからねぇ。
わたしだって、B’zやSMAPが出てきたときも、結構な間、知らなかったし。
世の中には、小説好きだけど、東野圭吾やハリー・ポッターを知らない人が、案外たくさんいるのかもしれませんね。

「博士の愛した数式」のキモは、「記憶が80分しかもたない」ということです。
要するに、一晩眠ると前日のことをすべて忘れてしまう。
その人の主観では、毎日毎日同じ朝を迎えるのだけど、現実には時は進んでいて、季節は変わり、人は齢を取っていく。そこでギャップが必ず生まれるわけで、それをどのように見せるか、ということが、作者には求められます。

こういう魅力的かつ汎用的な設定は昔からいくつもあって、その代表的なものが記憶喪失です。
わたしは、これまで、記憶喪失という人には1度も会ったことがありませんが、お話の中では、無数の記憶喪失者を見かけました。おかげで、今では、記憶喪失なんて設定は、恥ずかしくて使えないような状態になっています。
他では、タイムスリップなどもメジャーな汎用設定のひとつ。
読者と同じ価値観を持つ現代人を過去や未来に飛ばすことによって、現代とのギャップを描くことが面白いわけですが、それに加えて、周知の歴史との整合性でも盛り上げることができます。本能寺で信長が殺されることを知っている現代人が、本能寺直前の時代に飛ばされたら、どうするか、ということだけで、大抵の話は面白くなります。

「博士の愛した数式」の設定は、記憶喪失の一種なわけですが、記憶喪失に比べて、ルールがはっきりしているという特徴があります。
文字通り「数式」みたいな設定なんですね。
で、既に変数が存在していて、そこに何らかの値を与えてやれば、答え(=ストーリー)が勝手に出来上がってきます。

「博士の愛した数式」では、「記憶が80分しかもたない人」という変数に老数学博士を当て嵌め、それを「新しくやってきた家政婦(とその息子)」の視点から見ることで、ストーリーのかなりの部分が自動的に出来上がったという気がします(もちろん、それだけではなくて、小説としての無数の創意工夫があると思いますが)。

わたしの「ヒロシの愛したシキ」も「記憶が80分しかもたない人」に、恋人の体に脳移植された若者、という値を代入しただけで、そこから生み出される状況が必然的に出来上がってきました。あとは、それをどの視点から見るか、あるいは、どの時間軸に当て嵌めてやるかということを決めてやると、ほとんど選択の余地なく、こういうお話になります。

この数式に、どんな値が入るか? ちょっと考えただけでも、死刑囚、逃亡犯、神様、8月31日の小学生、クリスマス直前のサンタクロースなど、どれを当て嵌めても、そこそこのストーリーが簡単に出てきそうです。
そういう意味では、この設定は、お話作りのトレーニングに最適な設定、という気がします。
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